合格への鍵 ~重要必須事項について、近年の問題を通して解説~

(本欄は、当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)

平成30年度 第 7 回

(平成29年12月28日)
―法の不遡及の原則とは何か?―

建築基準法第3条第1項に重要文化財等の指定を受けた建築物について、第2項に現行法が制定される前から存在していた建築物については、現行法の適用を受けないという法の適用除外の規定があります。
以上のうちで法第3条第2項の規定は、「法の不遡及(ふそきゅう)の原則」、すなわち、法律はその法律が制定されてから以降は効力を持つが、その法律の制定される前に遡(さかのぼ)って効力を持たないという原則によるもので、この規定は、既存不適格建築物に対する法の適用除外規定とも呼ばれるものです。
なお、現行法の制定される前に建築されて現行法に適合していない既存不適格建築物は現行法に適合していなくても、そのままの状態であれば使うことは可能ですが、建築基準法第6条第1項の規定により、大規模の修繕または大規模の模様替をする場合は確認申請をする必要があり、その場合は現行法に全て適合させなければなりません。
この法の不遡及の原則は、「耐震改修促進法」について理解する上でも非常に重要な原則です。
ちなみに、耐震改修促進法が対象とする建築物の多くは、現行の基準法の耐震基準(1981年に改正された新耐震基準)以前に建てられた建築物で、建設時には当時の法(旧耐震基準)には適合していたものの、その後改正された現在の法(新耐震基準)には適合していない建築物、すなわち既存不適格建築物であるからです。
上記のように、現行法は、その建築物が建てられた現行法の制定前の時点まで遡って効力を発揮させることはできないため、耐震改修促進法における建築物の所有者に対する規定では、「改修しなければならない」のような義務規定ではなく、「改修するように努めなければならない」のような努力義務規定となっていることにも注意する必要があります。

【 問題 】「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
  1. 所管行政庁は、耐震改修の計画の申請に係る建築物が耐震関係規定に適合せず、かつ、建築基準法第3条第2項の規定の適用を受けている防火地域内の階数が3の耐火建築物である場合において、柱およびはりの模様替をすることにより、当該建築物が建築基準法第61条の規定に適合しないこととなるものであっても、所定の基準に適合すると認めるときは、計画の認定をすることができる。
  2. 所管行政庁は、耐震改修の計画の申請に係る建築物が耐震関係規定及び耐震関係規定以外の建築基準法の規定に適合せず、かつ、同法第3条第2項の規定の適用を受けている場合において、当該建築物の壁のない部分に壁を設けることにより、建築物の延べ面積を増加させる増築をしようとするものであり、かつ、当該工事後も、引き続き、耐震関係規定以外の同法の規定に適合しないこととなるものであっても、所定の基準に適合すると認めるときは、計画の認定をすることができる。
  3. 所管行政庁は、床面積の合計が2,000㎡のホテルについて、必要な耐震診断又は耐震改修が行われていないと認めるときは、その所有者に対し、必要な指示をすることができる。
  4. 一定規模以上の特定既存耐震不適格建築物の所有者は、当該建築物について耐震改修の計画を作成し、所管行政庁の認可を受けなければならない
 この問題は、平成24年一級建築士法規の問題で、設問1、2、3は正しく、設問4は誤りですが、この問題には耐震改修促進法についての、法の不遡及の原則、既存不適格建築物に係わる重要な事項が含まれています。
すなわち、設問1では、建築基準法第3条第2項の規定による既存不適格建築物を耐震改修することにより、現行法の規定に一部、不適合となることが生じても耐震改修の計画として認め、また設問2では、耐震改修をしても未だ一部、現行法に適合しない部分が残っていても耐震改修の計画として認めるというもので、これは、耐震改修等の大規模な模様替を行う場合は、全てを現行法令に適合するように改修しなければならないという原則を大きく緩和し、ともかくも、優先的に耐震改修を第一に促進させるための例外的ともいえる措置の規定と考えることができます。
設問3は、耐震改修促進法は、あくまでも、法の不遡及の原則を基本とする努力義務規定であっても、大震災時に甚大な被害の生じる恐れのある建築物(特定既存耐震不適格建築物等)については、(耐震改修は努力義務であっても耐震診断は義務化し、)実質的に強く耐震改修の促進を図ろうとする規定であるといえます。
また、設問4は、耐震改修促進法では、特定既存耐震不適格建築物でない建築物でも耐震改修の計画を申請することができることになっていること、及び、法の不遡及の原則から「・・・しなければならない」という義務規定ではない(条文上は「・・・することができる」)ので誤りです。

【 問題 】 次の記述のうち、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」上、誤っているものはどれか。。
  1. 建築物について地震に対する安全性に係る基準に適合している旨の認定を所管行政庁から受けた者は、当該建築物(基準適合認定建築物)、その敷地又は広告等に、所定の様式により、当該建築物が認定を受けている旨の表示を付することができる。
  2. 建築物の耐震改修の計画の認定を受けた者が、当該計画の認定を受けた計画に係る耐震改修の事業の完了の予定年月日を3月延長しようとするときは、所管行政庁の変更の認定を受けなくてよい。
  3. 要安全確認計画記載建築物の所有者は、当該建築物について、国土交通省令で定めるところにより、耐震診断を行い、その結果を、所定の期限までに所管行政庁に報告しなければならない。
  4. 通行障害建築物は、地震によって倒壊した場合においてその敷地に接する道路の通行を妨げ、多数の者の円滑な避難を困難とするおそれのあるものとして政令で定める建築物である。
  5. 所管行政庁は、通行障害既存耐震不適格建築物の所有者から申請があったときは、国土交通省令で定めるところにより、耐震診断の実施に要する費用を負担しなければならない。
この問題は、平成28年二級建築士法規の問題です。設問1、2、3、4は正しく、設問5は、「所管行政庁」とあるのは耐震改修促進法第10条第1項により「都道府県」なので、比較的単純な手続きに関する設問で誤りですが、この問題にも本来は法の不遡及の原則から耐震改修促進法の基本は努力義務規定で義務規定でないところを、設問1のようにできるだけ耐震改修の促進を図るための制度に関する設問や、また、設問3における要安全確認計画記載建築物や設問4における通行障害建築物のような災害時に甚大な被害の発生の可能性の高い建築物については、できるだけ耐震改修の促進を強く図ろうとする規定(耐震改修は努力義務でも耐震診断は義務化とする)に関する設問が含まれています。
また、設問5は、上記のような建築物について耐震診断を義務化することへの代償措置として、耐震診断の費用を補助する規定に関する設問です。



※過去の出展(過去5回分を表示)
第6回解説 2017年 11月 29日 他の建築士の作成した設計図書を許可なく変更することは可能か?
第5回解説 2017年 10月 25日 工事監理の職責は何か?
第4回解説 2017年 10月 6日 建築士事務所に関する重要な規定は何か?
第3回解説 2017年 9月11日 建築士の役割は何か?
第2回解説 2017年 9月 4日 新傾向の問題で出題頻度が高く定番となりつつある問題は?

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