二級建築士 試験

令和2年二級建築士設計製図試験の講評

- 令和2年9月18日 -

本年度の課題: シェアハウスを併設した高齢者夫婦の住まい(木造2階建て)


<一見単純そうに見えても実は高度な建築計画力を要する問題>
 本年の設計製図試験「シェアハウスを併設した高齢者夫婦の住まい」の設計条件としては、高齢者夫婦の住宅とシェアハウスのLDK(居間、食堂、台所)は共に1階に置かれ、そのほかのシェアハウスの各個室とシェアハウスの入居者の交流スペース等は2階に置かれるという条件で、構成上はこの課題では種々のパターンが考えられる中にあって、比較的単純な基本的なパターンであるといえます。
 但し、この設計条件をよく読むと、設計上のポイントともなるいくつかの注目すべき重要事項があることが理解されます。

設計上の重要ポイントとなる留意事項

●敷地の接道条件
 課題の敷地は同一幅員の道路が南側と西側に接し、敷地内の南側道路から一定の後退距離の範囲は建築することのできない規制があり、また南西の敷地の角地には自動車等の出入や駐車のできない制限が課されています。
 以上のような敷地の条件の中で、先ず敷地の南側と西側に道路が接すること、特に南側に道路が接することが、この課題の重要ポイントで、この課題の難度が高い要因となっています。
 何故ならば、この課題では、「住宅」と「シェアハウス」のLDKが1階に設けられることになっていますが、LDKの南側には庭を設けることがいわば設計の定石となっており(設計条件では、シェアハウスの南側に屋外テラスを設ける条件が付されています。)、これらの条件の中で敷地の南側には、「住宅」または「シェアハウス」のどちらかの玄関へのアクセスをとるとともに、「住宅」用の駐車場または「シェアハウス」用の駐輪場も設けなければならず、このため、全体計画のためにはかなり高度な建築計画力を要することとなります。
 なお、この課題の場合のように敷地の南側と西側に二つの道路が接している場合は、「住宅」、「シェアハウス」へのアクセスは、出来るだけ離して南側と西側のそれぞれの道路からとるのが基本原則ですので、南側の道路からアクセスをとらずに、西側の道路のみから「住宅」、「シェアハウス」へのアクセスをとることはできません。

●「住宅」、「シェアハウス」共に玄関に至るスロープを設けること
 この課題では、高齢者住宅の玄関に至る通路にスロープを設けるのみならず、「シェアハウス」の玄関に至る通路にもスロープを設けることとなっていますが、シェアハウスのスロープについても当然、車イス使用の場合を想定した「住宅」のスロープと同一勾配のスロープを設けることが必要となります。
 このため、南側道路から「住宅」へのアクセスをとるか、「シェアハウス」へのアクセスをとるか、いずれの場合であっても、スロープ通路をとるため南側道路よりの外構計画はより難しいものとなっています。

●1階と2階の平面計画と構造計画との整合性
 木造では、どのような建物でも、1階と2階の平面計画においては、構造的な軸組を構成するような主要な柱は、梁に無理な力がかからないように、1階、2階の同一位置にあるなどの構造上の整合性を図る必要がありますが、特にこの課題では1階に「住宅」、「シェアハウス」のL.D.K等の比較的面積の大きな室が設けられる一方で、2階には「シェアハウス」の個室等、面積の小さな室が設けられるため、1階の平面と2階の平面を考える場合に構造的な不整合が生じないように充分留意する必要がありますが、これは構造上の問題というより、むしろ平面プランを考える段階での主要な留意点であるといえます。

●階段の設計上の特記について
 本年の課題においては、近年の課題と同様に、特に安全を確保するためにとして、基準法で規定されている寸法よりも緩い寸法の階段が要求されましたが、階段の設計はその部分の計画に影響するのみならず、場合によっては全体の計画にも影響することがあるため、計画の当初から充分留意しておく必要があります。


 以上、本年度の試験の計画上の主な留意事項について記述しましたが、中でも、敷地の南側に道路が接する場合の住宅系の建物の計画は、上記のように特に計画の難度が上がることに注意が必要で、採点の比重の高い建築計画上の最重要ポイントともいえます。


 改めて申すまでもなく、設計製図試験は設計と製図の試験であることから、限られた時間内に正確に図面を書き上げるしっかりした製図力を身につけておくことが合否の前提条件となることは申すまでもありません。 この意味で本年の試験では、久しぶりに従来の部分詳細図に代わって矩形図が課されたことにも注意する必要があります。
 矩形図は詳細な断面図ともいえるもので、床伏図とともに全体的な建物の構成をいかに確実に把握しているか評価するものとして今後も留意すべきポイントとなると考えることができます。

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