一級建築士 試験

令和3年一級建築士設計製図試験の講評

- 令和 3年10月13日 -

本年度の課題: 「集合住宅」


●はじめに
一級建築士設計製図試験について、平成21年の試験内容の見直しが試験実施機関より発表されて以来、試験課題の内容は、概してより高度な建築計画力を要するものとなってまいりましたが、本年の試験ではその傾向が一層顕著なものとなりました。
すなわち、本年度試験の課題条件においては先ず敷地におけるアプローチの考え方が比較的難しい判断を要するものであり、それ故にその後の建築計画の適否に大きな影響力を与えるものとなっていることが注意すべきポイントであるといえます。

●本年度の試験課題における最も基本的な重要ポイントについて
 この課題の敷地は、東西方向にやや長い長方形の敷地で、敷地の短辺に当たる東側には歩道付の幅員8mの広い道路が接し、同じく短辺に当たる西側には歩道のない幅員4mの狭い道路が接しています。
この課題の主要施設である住戸部門、居住者以外の人が利用するテナント部門(学習塾、カフェ等)及び施設管理部門、駐車場等へのアプローチをどのようにとるのかは、以降の建築計画に重要な影響を及ぼすわけですが、必ずしも決定的な考え方がある訳ではありません。

 一般的に建築計画では学科のように正誤が必ずしもはっきりしている訳ではなく、どちらの方が総合的に考えてよりよい案であるかと判断される場合も多くあります。
この場合、学習塾、カフェ等の集合住宅の居住者以外の外部からの人の来るテナント部門のアプローチは、一般的にはやはり歩道付きの幅員の広い東側の道路からとるのが望ましいと考えられますが、住戸部門へのアプローチは、幅員の狭い西側の道路からでもよいと考えられなくもありません。
何故なら、西側の道路の反対側には何戸もの戸建て住宅が建っていることからもこの建物の住戸部門へのアプローチは必ずしも幅員の広い方の道路からとる必要はないのではないかとも考えられるからです。
しかしながら、幅員の広い東側道路の両側には店舗付集合住宅が建ち並んでいることからは、この建物の主要施設である住戸のメインアプローチは歩道付きの幅員の広い東側の道路からとするのがやはり自然で、試験の解答としてはより安全であると考えられます。

 以上から、住戸部門へのアプローチとテナント部門へのアプローチは共に東側の道路からできるだけ相互の距離はあけてとることとして、他方、西側の歩道のない幅員の狭い道路からは、管理用のアプローチ及び駐車場のためのアプローチをとり、かつ建物の西側には、管理用、駐車場からの出入りのための通用口を設けることがより望ましい考え方であるといえます。

 但し、このように長方形の敷地の短辺に当たる東側道路から住戸部門とテナント部門の両方のアプローチをとることは、それぞれのエントランス、エントランスホールを建物の短辺となる東側にとることとなるため、ゾーニングや動線の整理等、この課題における建築計画上の難度は増すことになります。

 但し、当会の設計製図の講座では、敷地の短辺方向からの住戸部門へのアプローチと住戸の居住者以外の地域住民のいわゆる外部の人の利用が可能なレストランやコミュニケーション施設等へのアプローチをどのようにとり、ゾーニングや動線をどのように整理するかという練習課題を何度か実施しており、それらに類似した課題と考えればそれほどの難しさはなかったのではないかと考えられます。

 なお、この課題において、住戸部門とテナント部門の関係をまったく別個の施設と考えるか、相互に関係のある施設と考えるかということも、この課題の建築計画上のポイントの一つと考えられますが、住戸部門の住民がテナント部門のカフェ等を利用する可能性も考えられ、また従来の試験課題でも複合施設からなる建物で、それぞれの施設の相互の関係が全くなく単に同居しているだけという課題は過去にもなかったことから、やはり住戸部門とテナント部門は、住戸部門のセキュリティに留意しつつ、内部で相互の連なりを考慮する必要があると考えられます。
なお、その場合、防火区画としての異種用途区画の必要性についても留意しておく必要があります。


●まとめ
 以上のように、本年度の試験課題では建築計画を考える上での諸々のポイントがある中で、先ず最初に考えるべき建築計画全般に大きな影響を及ぼす重要なポイントとして、上記のような建物の諸々の部門へのアプローチをどのように計画するかということが、特にこの課題では重要なポイントであると考えられます。
 何故ならば、この課題の条件では、アプローチをどのようにとるべきかという考え方は一つではなく、いくつかの考え方があり得る訳で迷いの生ずるところですが、採点のポイントがどのようになっているか確実に推測することは受験者には当然できませんので、仮にそれによって建築計画上の難度が高くなっても、試験の解答案としてはあくまでもより望ましい安全側の解答案に考えておく必要があるといえます。
 このように考えると、本年度の試験課題は、一見平易なもののようにも考えられるものの、合格を確実にするためのレベルの解答案を作成するためには相当に高度な建築計画力を要する難度の高い課題であるとも考えられます。
 以上が本年度の試験課題における建築計画を考える上での最も基本的な重要ポイントであり、特徴であるともいえると考えられます。


―当会の一級建築士 長期設計製図講座について―

設計製図試験は、「設計」と「製図」及び「計画主旨の記述」について評価される試験で、いずれも合否を決める重要な要素ですが、製図及び計画主旨の記述は比較的短期間で学習することが可能なのに対して、設計(建築計画)については、合格に必要な能力を短期間で身に付けることは困難で、かつ試験における評価の比重も極めて高いため、まさに合否の鍵ともいうことができます。
このため、本会の長期設計製図講座では、設計(建築計画)についての基本的な能力を養成するためには課題の対象建物が何であるかは直接関係ないため、試験課題発表前から厳選練習課題10課題により設計(建築計画)力の基本的な能力を養成し、試験課題発表後は本試験課題に沿った厳選練習課題10課題により実践力の養成を徹底的に図ることとしております。
なお、本講座では、合格に必要な製図力及び計画主旨の記述力の徹底養成をもあわせて図ることにより毎年高い実績をあげております。


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