一級建士試験築

令和 4年一級建築士設計製図試験課題の講評

- 令和 4年7月22日 -

【課題の講評 
本年度の一級建築士設計製図試験の課題は以下のように発表されました。

課題: 「集合住宅」


■要求図面

(注1) 建築基準法令等に適合した建築物の計画 (建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。
(注2) 「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画とする。

■建築物の計画に当たっての留意事項

■注意事項



課題の解説

令和4年度の一級建築士設計製図試験の課題は、「事務所ビル」と発表されました。本年度の課題の「事務所ビル」は、昨年度の課題の「集合住宅」と同様に、一見極めて単純な機能の建物のようにも思え、少し戸惑われた方もおられるのではないでしょうか。

過去には、事務所ビルについての課題は、1998年に「多目的ホールのある事務所ビル」として出題されました。また、2009年に「貸事務所ビル」として出題されましたが、この時は、「1階に展示用の貸スペース、基準階に一般事務用の貸スペースを計画する」という副題が付いていました。

なお、この年は、丁度、試験の実施期間である(公財)建築技術教育普及センターより、一級建築士試験の内容についての見直しが発表された年で、設計製図試験については、従来以上に、構造、設備等についての計画主旨の記述等が課されることとなったことなどにより、今後は受験生の負担が過度にならないためにも、従来の複合施設等のような余り複雑な建物は課題としないと明記されていました。

しかしながら、この年の課題は、前記のように、単なる「事務所ビル」でなく、「1階に展示用の貸スペース、基準階に一般事務用の貸スペースを計画する」という副題が付されたものとなっており、また、その後の試験課題でも、従前と全く変わりなく、複合化したような複雑な機能の建物が試験の課題とされて今日に至っています。

では、何故、このようなことが起こったのでしょうか。それは、試験の本質的な問題にまで係わることといえそうですが、一般的に、単純な機能の建物であればある程に、その建物の評価はより本質的な微妙なものとなり、難しくなる。他方、複雑な機能の建物であればある程に、評価する要素が増えるため評価しやすくなる。
ということと関係があるものと考えられます。

以上のようなことから、今回の課題である事務所ビルにおいても、単純な事務所機能のみの建物でなく、わざわざ副題で表示するような特別な機能でなくとも、普通の事務所ビルには備わっているような、食堂、会議室、リフレッシュラウンジや総合管理室、設備管理室等の様々な要素の附属的な機能を含む建物として併せて要求される可能性が高いと考えられます。
更に、近年の試験課題で要求事項として何度も出題されているパッシブデザインを取り入れた計画や近年の社会状況を反映したセキュリティについて留意した計画等も要求事項として取り上げられる可能性も高いと考えられます。また、事務所ビルでは、建物内部のみの計画だけでなく、敷地周辺の環境を考慮した外部空間の考え方、計画、及びそれらと建物との関係も重要な要素となることもあることに留意しておく必要があります。

なお、本年の課題の建物の基本構成としては、建物の規模は例年の試験課題の例から考えて、建物の1フロアの床面積が1,000㎡程度以内の中規模事務所ビルで、そのためコアの形式としてはサイドコア形式によるものとなる可能性が高いと考えられます。また、例年のように平面図として3面要求される可能性が高いため1階と2階が特別階で、3階以上が基準階となる構成で、要求される平面図としては1階と2階の特別階の平面図及び3階以上の基準階の平面図の3面となる可能性が最も高いと考えられます。

●以上のように本年度の課題である事務所ビルにおいては、事務所ビルそのものの機能としてのコアの考え方、特別階と基準階との関係、整合性等の事務所ビルそのものの要素の他に、前述のように、実に様々な要素の関わる複雑な機能の建物として出題される可能性が高く、高度な建築計画力を要する課題となる可能性が高いと考えられます。
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